‡‡‡ It sides with heavens ‡‡‡
空は快晴、風も穏やか。
気温もそこそこっ。
OK、天は私に味方しているっ。
大丈夫、絶対に大丈夫っ。
ギュッと握りこぶしを握って私は一歩を踏み出した。
大学入試。
そう、今日はその日。
センター試験も終わって、テストの答え合わせをして、志望大学になんとか点数足りていた時は、心底ホッとした。
センターで躓いたらはっきり言って、かなり落ち込んでいたもん。
だから、足りていてホッとしたけど、同時に本番へ向けての猛勉強っ。
なんでその大学がいいかって………それは、行きたい学部があるからって言うのもあるんだけど…。
裏情報で、そこの大学の男子生徒はなかなかレベルが高いらしい。
頭のじゃないよ、はっきり言えば外見の。
顔で取ってるんじゃないかって言われるくらい凄いらしい。
これから過ごすかもしれない学生ライフっ。
楽しまなきゃ意味がないから、自分の実力よりちょい上でも頑張ったわけですっ。
自分の受験番号のある教室の中へと入ると、高校とは違った、教室というよりは『講義室』っていう感じの部屋。
机は個々じゃなくって、一枚の板のように長くて、椅子は映画館みたいな感じ…材質は硬そうな木だけど…の跳ね上がり式。
しかも後ろの机に固定される形だから、通路側に誰かが座っていて、真ん中あたりに座りたい場合、一旦どいてもらわなければならない。
受かればここに通うんだなぁ…って思いながら自分の受験番号の場所を探す。
見つけた場所は、通路側。
隣が通路って結構落ち着けたりするんだよね、私。
やっぱり天は私の味方だっ。
椅子に座って、筆記用具とかの準備をして、時計を見るとまだ始まるまで時間がある。
少し復習しておこう…。
そう思ってカバンから参考書を出そうとしたら、
「わりっ、俺の場所そこなんだけど?」
という、なんていうか…モロ好みの低い声が聞こえた。
「え?」
見上げると、そこに高校生?って言いたくなるような男性が立っていた。
印象的な紅くて長い髪。
ファー付きフードの濃い藍色のロングコート。
そのままスキー行けそう…。
なんて思ったけど、よく見ると、結構有名な高校の校章をつけていた。
変わった学校で制服はなく、校章だけを着ければどんな服でも構わないという学校。
ジッと見る私を見てちょっと困った風に長い前髪を掻き上げる仕草もカッコイイんだけど…。
「あ、ごめんなさいっ」
私がどかないから、自分の席につけなくて困っているんだって分かって、慌てて立ち上がって通路を空けた。
「サンキュv」
軽くウィンクされてしまった…。
思わず見惚れていたけど、我に返って、慌てて最後の悪あがきをする。
あの人…受かったらここに入学するのかな…。
受かっても、入学するかどうかは別だしね。
一緒の学校だったら…………ってまだ受かってもないっていうか、試験始まってもないしっ。
沸き起こる妄想じみたモノを蹴散らすように頭を軽く振って、参考書に再び意識を集中させた。
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前日の雪が残るやたら寒い朝。
そう、今日は合格発表の日。
合格発表………どうせなら合否発表ってはっきり言って欲しいものだよ…。
あの快晴で風も殆どなく気温もソコソコの日にくぐった門を再びくぐる。
受かってるといいけどぉ…。
正直、前日は緊張の為眠れなかった…。
受験日前日でさえ眠れたって言うのに…。
前日の雪に足を囚われないように気をつけながら、ゆっくりと掲示板の方へと進んでいく。
うわ〜………圧巻…。
真っ白な紙に、いくつモノ数字。
その前に人が沢山。
喜んでいる人に、項垂れている人。
澄ましている人に、泣いている人。
人間の人生模様が垣間見える瞬間。
それに私も加わるのねぇ…。
正直逃げたいわ…。
「えっと………理工学部の電子情報学科は……ここかな」
紙の上に済まなそうに書いてある学科を見ながら呟いて、次に数字を追っていく。
自分の数字が近くなるにつれ、動悸が早くなっていく。
「…8300……8300………8300…………………………あったぁっ!!!」
8238から一気に飛んで8300っ!!
う、受かったぁっっ!!!
寒さも一気にすっ飛んで、喜んでいたら、
「へぇ?受かったんだ、良かったじゃん?」
という、あのモロ好みの低い声が聞こえて、同時に私の後ろから伸びてきた手が私の肩を抱くように私の前で交差した。
「な、ななな、何ぃぃぃぃぃっっ?!?!?」
突然の事に頭大パニック。
「……ぷっ………おっもしれぇ反応v」
叫んだものの、固まっている私の直ぐ後ろで笑ってるこの人。
一体なんなのよっ。
「悟浄………いくら受かって嬉しいからってそれではただの変質者ですよ」
私の前に立った物腰柔らかそうな男性が私の後ろにいる人に向かって、実にもっともらしい事を言う。
あれ?
受かって嬉しいって…。
「あ、貴方も受かったんですか?」
固まっている私の首を無理やり回すように後ろを見つつ聞くと、目に飛び込んできたのは、紅い瞳。
「そv。4月から一緒に勉強するってこと?」
「そ、そうなんですか」
それは嬉しい事なんだけど…。
抱きしめられたままの私はどうすればいいのっ?
「あ、あのっ、手…離してくれませんか?」
動けないし、回りはすっごい目で見てるし…。
「…なぁ、名前、何?」
「え?…ですけど」
「チャンって言うんだ?俺は沙悟浄v」
「僕は猪八戒です」
離して欲しいと言った手はそのままで、名前を聞かれたから答えると、相手も、その友達も名前を教えてくれた。
「はぁ…」
名前教えられても…どうしたらいいのか分からないし…。
「チャンには彼氏いるの?」
はいっ?
突然何を聞いて来るんだ、この人っ。
「えっと……………………聞いてどうするんですか?」
「すみません。悟浄、珍しく本気なんですよ」
「八戒、余計な事いうなってのっ」
私の前と後ろで会話をする二人…。
一体何が珍しく本気なんだろう…。
何でもいい…こ、この腕を解いて欲しい〜…。
恥ずかしくてたまらないんだけどぉ。
そう思って、ちょっと身体を捩ったら、不意を付いていたのか、あっさり腕が離れた。
と思ったら、足元を雪に取られてバランスを崩してしまった。
「え?…きゃっっ」
受験終わって受かってから滑るってどうよっ?!
ってどうしようもない事を考えつつ、地面にぶつかる衝撃を待ったんだけど…。
「ぁ、あれ?」
「あっぶねぇ〜…」
「大丈夫ですか?」
え?何?
全然痛くないんだけど…。
と言うか………なんか柔らかい?
恐る恐る瞼を開けると、景色が横向きに見えた。
とりあえず地面に平行になっているらしいって事だけ分かるけど…。
「どこかぶつけたか?」
聞こえてきた声は私の下から。
………下っ?!
まさかと思って顔を勢いよく地面側に向けると、それはそれは息が掛かるかって言うくらい間近に悟浄と名乗ったあの男性の顔があって…。
うっっっ…………………か、カッコイイっっ!!
って思ったら、一気に顔が赤くなっていくのに気が付いて、慌てて上からどこうとしたんだけど、動かないっ?
「っしょっと」
軽い掛け声と共に、私と一緒に起き上がる形になる。
……………腰に手が回っている…。
だから動けなかったのねぇ。
なぁんて呑気に考えるべきっ?
今のこの状態は、はっきり言って、さっきより恥ずかしいっ。
地面の上。
男の膝の上で横抱きにされている女の図。
うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!?
「ご、ごめんなさいっ!」
謝って、立ち上がろうとするんだけど、腰に回っていた腕が、背中に回ったかと思ったら、胸に抱きこむように抱きしめられてしまった。
あまりの事にもう声すら出ないです…。
「なぁ、俺マジなんだけどさ」
だ、だから何がでしょうかっ。
「答えてくれね?………彼氏いる?」
私の頭上あたりから聞こえてくる、どこか悲痛な声。
驚いたままの私に声を出す事は出来ないから、とりあえず首を横に振った。
「そっか………俺さ、見た目通り結構遊んでたんだけどさ」
見た目通りって自分で言うか、普通…。
あぁ、でもやっぱり遊んでいるのねぇ。
それでもこの大学に受かるなんて…実は頭いいんでしょう。
「今回はマジなんだわ」
だからっ!
何がマジなのよっ!
「アンタが………が好きだ」
「…………………え?」
ようやく出た声がこの一言。
相変わらず私を強く抱きしめたままのこの人。
表情が見えない。
本気なのか…遊びなのか…。
マジだと何度も言ってたけど…。
「なぁ、彼氏いねぇんなら、俺と付き合ってくんね?」
そ、そんないい加減でいいのかっ?
好きか嫌いかじゃなくって、彼氏がいるかいないかっていうだけ?
「悟浄…水を差すようで申し訳ないんですけど…彼女に他に好きな人がいたらどうするんですか?…まったくこんな事にも気付かないなんて、らしくないですね、本当に」
「あ、そっか」
立ったままの、八戒と名乗った男性がそう言ったんだけど、確かにそうだよね。
私に好きな人がいたらどうなるんだろう…。
「………で、好きな人いる?」
「……………………ぃ、いるような…いないような………」
「は?」
自分でも何を言ってるんだか…。
引っかかる人はいるんだけどねぇ。
それが好きなのかなんなのか今一分からないから…。
「えっと………気になる人は…いるんですけど…」
「マジ?」
「はい」
「俺の知ってる人?」
知ってる人である確立の方がかなり低いよね。
学校違うし。
「………………………たぶん」
…私って…とんでもない女だ。
揺さぶりかけてるようだよ、これじゃぁ。
「多分ってなんだよ…」
案の定、ちょっと苛ついた声が聞こえてきた。
でもねぇ…恋愛経験少ない私は、貴方みたいにすんなり言えないの。
『貴方の事が気になる』
だなんてね。
あ〜でもこのままだと…かなりもったいない事をしそうな感じがする…。
どうしよう…。
「あっれぇ?悟浄じゃんv」
「ん?お、久しぶりじゃん、麗那チャンv」
突然聞こえてきた女性の声。
それに答える悟浄の声はさっきまでの声と違って楽しそう。
「何してんの、こんなところで女抱きしめて」
「口説いてるところv」
「相変わらずナンパ野郎だねぇ」
「悟浄、言葉間違えてます。『口説く』じゃなく、『告白』ですよ」
「あ、八戒も、お久v。って…えぇっ!告ってるのっっ?!」
大きな声の人だなぁ…。
というか…すっごい驚いてますけど…。
「え〜?なんでこの子?私の時は結局口説かれてたってだけだったのに」
「そういう事を今のこの状況で言うわけ?麗那チャンは…」
所謂…彼女ですか?
「………彼女?」
心で思ったことを素直に聞いてみる。
こういう時だけ素直な私って…。
「ち、違うってっ!」
「でも私はまだ悟浄が好きだよ?」
サラリとそう女性が言ったら、私の中で何かがこう…メラメラと…。
「私だったら速攻でOKなんだけどなぁ」
その言葉が引き金だったのかどうだか分からないけど、気が付けば、私は悟浄の服を強く掴んで、顔を見上げていた。
「ゎ…私………ぁ、貴方の事……す……す………好きっ………かもしれない…」
最後は俯いて言ってるんだけど…。
自分で言うのもなんだけど…。
「ごめん、中途半端で…」
服を掴んでいた手を離して顔が見えないように自分の髪を掻き上げるような仕草をしながら手で隠した。
「なんで?マジ嬉しいけど?」
女性が寄ってきた事で、緩くなっていた腕が、再度強くなる。
「で、付き合ってくれるのか?」
「……………ぅ、ん…」
小さく答えて、小さく頷く…。
「…サンキュ、」
耳元で囁くようにお礼を言われて…………………不覚にも腰が抜けるかと思った…。
「え〜、悟浄もう一人の女のモノなわけ?」
「そういうことv悪いな、麗那チャンv」
不服そうに言う女性の声と、すっごい嬉しそうな悟浄の声。
「しょうがないなぁ…。あ、八戒君どう?」
「貴女みたいに軽い女性に興味ないですから。どちらかと言うと、悟浄に一目惚れと本気にさせる魅力を持っている彼女の方に興味ありますよ」
「八戒…いくらお前でも、やらねぇぞ」
「そうですか?僕の方がいいと思いますけどねぇ…ところで悟浄の何処がいいんですか?」
「は?…え、えっと………………こ、声かな?」
「声ですか…それは僕ではどうしようもないですね」
さっきからこの八戒さんって言う人…笑顔で話しているんだけど…。
所々笑えない部分があるんですけどっ。
その所為で、さっきの女性、既にどこかに行ってしまっているしっ。
「へぇ、俺の声好きなんだ?」
「っっ………わ、わざと耳元で言わないで欲しい…」
耳を両手で覆うようにして言い返せば、
「可愛い………。マジ好きだぜ、」
って言って、目尻に唇を落としてきた。
すっごい慣れている感じがしたんだけど…。
慣れてない男よりはいいのかなぁ…。
でも慣れてるって事は………………先々色々大変そうだね、私。
これからのキャンパスライフ。
とりあえず好発進。
でも微妙に不安も追走って感じかな?
中途半端にしか言えなかったけどね。
本当は貴方の事『好き』なの。
多分、きっと、私も一目惚れ。
一目惚れだったなんて言わないけどね。
言うとしたら、ずぅ〜〜っと後。
もう絶対に私から離れないって分かったら、言ってもいいかな?
そんな日は…来るのかな?
合格発表の日に、大学合格と、彼氏をGET。
やっぱりあの受験の日、天は私に味方していたんだね。
「ところでいつまで座っているんですか?」
と、地面に座ったままの私達に八戒さんが呆れて声を掛けたのは……私達の周りに人垣が出来た頃。
恥ずかしいです………。
END
テーマを受験。前でも後でも。ヒロインは管理人から見る緋桃さま像。
受験当日と後日になりました。
微妙です(笑)
そして、ヒロインが私から見た緋桃さまかどうか…。
怖くて書けませんでしたっ。
いや、バリバリに違うしっ、こんな風に見てたのかっ?って思われたらかなり辛い(汗)
なので、全く関係なくヒロインを作成しましたので〜。
受験番号『8300』(笑)
キリ番そのまま使用しました。
しかも理工学部電子情報学科…兄貴の行ってた学部学科です(笑)
はっきり言って兄貴がどんな事していたのかは今も謎♪
相変わらずすみません、緋桃さま。
えぇ、今回もいつもどおり、返品可です。
それでも、緋桃さまに捧げますねっ。
緋桃さまに限りお持ち帰り可能です。
入試…私は前日にこのドリを見て、『よっしゃ!合格してやる!!』とか騒いでました。
そして、私のリク内容………無理あるなぁ。気にしちゃあかんね。
何だか微笑ましい二人だし、いやぁ青春だねぇ!と、口に出して読んでました(笑